最近では、日本人のむし歯は、小学生まではかなり少なくなっていて、平成17年度の12歳児の1人平均むし歯数は1.7本と15年位前の半分以下になっています(中学生以降成人は別) 。
国別でみますと、平成17年度の予防先進国のスウェーデンやフィンランドなどでは平均のむし歯数が1本前後と日本の半分近くですから、日本は予防先進国に追いつくにはもうひとがんばりということになります。
むし歯って、あの穴の開いた状態でしょ!
ほとんどの方はそうおっしゃいます。
でも、一口にむし歯といっても千差万別です。
歯がほとんど原型をとどめないくらい崩れてしまったむし歯。
高齢者特有の歯の根にできるむし歯。
黒くてもむし歯ではないもの。
そして写真左上のように表面が白くなっているむし歯(CO)です。
それは初期むし歯。
穴の開いたむし歯は自分では治せないのが常識。
でも、初期むし歯だったら自分で治せる可能性があります。
ここではむし歯予防について考えてみましょう!
兄弟でもむし歯ができない子もいれば、できる子もいます。
うちの子は一生懸命歯みがきをしているのに、○○ちゃんは歯をぜんぜんみがかないみたいなのにむし歯がない。
なぜなんでしょう?
ところが日本人のむし歯の本数は表の国の中では多い方です。
このことから砂糖をたくさん消費しているからといってむし歯の数が多いとはいえないことがよくわかります。
毎日歯をみがく人は98%以上。1日に2回みがく人は50%。3回みがく人は20%もいます。
日本人は世界でも有数の歯みがきをしている国です。
一所懸命に歯みがきをしていてもむし歯になるようですが、実はむし歯と歯みがきの明らかな関連は関係ははっきりとは分かっていません。
逆に、1日にみがく回数とむし歯の発生には関連がないという報告はあるようです。
歯みがきとむし歯の発生を比較した根拠のある研究はほとんど見当たりません。
フッ素を有効に活用することで世界のむし歯予防が可能になりました。
一方、日本では歯みがきはむし歯予防に最も有効と思われていましたが、実はいずれの評価も低かったようです。
むし歯のできやすいのは
⇒歯の溝の中から、と
⇒歯と歯の間から
です。
しかし、この写真のように歯ブラシの毛先は歯の溝の中や歯と歯の間までは届いていません。
このことからも歯みがきでむし歯が予防できないことがお分かりでしょう。
むし歯の原因は細菌。
歯垢=プラーク=あの白っぽいネバネバした歯クソです。
そしてその99%は細菌。
しかし口の中にいる300種類以上の細菌のうち酸を産生するのはそのうち数種類です。
代表的なのはミュータンス菌、そして乳酸桿菌(ラクトバチルス菌)。おなかにいる乳酸菌の兄弟です。口にいると酸を出すだけで悪者になってます。なにかの役に立っているかもしれないのにかわいそうな気もします。
さて、単に口の中に細菌がいるだけではむし歯にはなりません。
生まれたばかりの赤ちゃんの口には、「ミュータンス菌」はいません。
ほとんどが1歳7ヶ月から2歳7ヶ月くらいの間に、お母さんや身近な大人の口から、唾液に乗って感染します。
食べ物やミルクの熱さや味をスプーンや哺乳瓶の乳首を直接口に入れて確かめることで子への感染が起きるのです。
細菌の数は個人差があって、母親が多ければ、その子も多い傾向にあるようです。
通常、口の中は中性です。
ところが砂糖や炭水化物が口に入ると歯の表面は細菌によって一気に酸性になります。
すると歯の中からカルシウムやリンといったミネラル(歯の成分)が口の中に溶け出て行きます。
これが脱灰(だっかい)という状態です。
面白いことにミネラルが抜けるのは歯の表面ではなく図のように、少し中なのです。
食事が終わってしばらくすると歯垢の中は「唾液中の重炭酸塩による緩衝作用という酸を中和する働き」によって中性に戻っていきます。
このときに唾液の中のカルシウム(Ca)やリン(PO4)が再び歯のなかに取り込まれていきます。これが再石灰化という状態です。
このように、口の中は食べ物が口に入るたびに絶えずむし歯になったり(=脱灰)と治ったり(=再石灰化)を繰り返す、いわば「ゆれている」状態なのです。
そして、この揺れている間は決してあなたの知っている穴の開いたむし歯にはなりません。
歯の表面が崩れてむし歯という状態になるのは、長い時間細菌の産生する酸にさらされたときなのです。
唾液にはむし歯を予防する高い能力があります。
「唾液の緩衝能(かんしょうのう)」といい、これには個人差があります。
歯垢の中で産生された酸は 「唾液中の重炭酸塩による作用」で中和されます。
でも、唾液の緩衝能が低いとなかなか中性に戻りません。
つまり長時間、歯の表面は長時間酸にさらされることになります。
濃い砂糖を口にした場合には、細菌はより長時間酸を産生し続けます。
また、乳歯や生えて間もない永久歯はとても柔らかく、弱い酸でも溶け始めます。
決して無理ではありません。
①食事に気をつける
②歯を強くする
ことでかなり防ぐことができます。
もっともむし歯になりやすいのは「だらだら食い」です。おかしやジュースを手元に置いてだらだら飲み食いしていると歯の表面は長時間酸にさらされて、むし歯になる危険性が非常に高くなります。
むし歯は「食べ物の量」ではなく「食べた回数」に大きく関連します。
フルコースのディナーやケーキ1ホールも、アメひとつ、ガム1枚、ジュース1口も1食です。
間違って理解して欲しくないのは、甘いものを禁じているのではないということ。
まったく砂糖を摂らないのではなく、食事といっしょにデザートをとる。飴をシュガーレスに変えるといった工夫をすることで回数を減らすのです。
歯を強くするには唯一、フッ素が有効です。
歯磨剤や洗口剤に含まれる濃度の低いフッ素を長く、継続して使うことが最も大切です。
それとともに、定期的に歯科医院で濃度の高いフッ素を塗布することで、歯質の強化はより確実になります。
歯の表面エナメル質は99%がハイドロキシアパタイトに非常に良く似たリン酸カルシウムの結晶からなります。
しかし、エナメル質アパタイトは不完全な結晶であるためカルシウムが溶け出やすくなります。
これがむし歯のなりやすさと関係しています。
フッ素が歯に取り込まれると、水酸基と置換してフルオロアパタイトになります。
フルオロアパタイトは結晶の不完全な部分を治し、ハイドロキシアパタイトよりも水や酸に溶けにくい安定した結晶にします。
これによってむし歯予防が可能になるのです。
一生の間にむし歯のなりやすい時期は、図が示すように4回の大きなピークがあります。
1回目は乳歯が生えたて数年。
2回目は永久歯が生えて数年。
3回目は中学生、高校生。
そして4回目は高齢者、です。
これまで、むし歯は予防できることをお伝えしてきました。
しかし新しい正しい知識を持たずに、自己流の予防方法がいかに無力かは、むし歯になった多くの方が実感しているところでしょう。
歯科医院と共に守っていくことがこれからはもっと必要になっていくはずです。
特に子供たちには、予防のために歯科医院を利用することが当たり前なのだということを財産として残してあげたいと思っています。